朝、前輪の空気が少し抜けた自転車に乗ると、仕事場に着いた頃にはかなりペシャンコになっていた。昼休みに自転車屋に持っていくと、パンクではなくバルブが原因だと言われた。修理代はちょうど千円。部品代だけならおそらく100円くらいのものだろう。千円は高いと言えば高いのだが、自分には修理をする工具もウデもないから仕方ない。
街のショボイ自転車屋はパンク修理の仕事がたまにあるくらいで、新車なんかたぶん売れない。店には中古自転車が売り物として置いてあった。放置自転車を警察が集めて売るらしいが、たぶんそんなとこから安く仕入れて、整備したり塗装したりして売っているのだろう。それにしたって滅多に売れるわけもない。
そんなことを考えると、修理代千円くらいで経営が成り立つのかと頭をひねる次第である。


ぱんぱんになるくらいタイヤに空気を入れてもらうと、コンクリートの地面の上で自転車は滑るように走った。氷の上を滑るソリのように。空を翔るグライダーのように。そんな感覚に似たものを体に感じ、心地よかった。