『ボルベール<帰郷>』

スマイルBEST ボルベール<帰郷> スタンダード・エディション [DVD]

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僕は映画を観るのがヘタだ。登場人物の関係性が分からないまま観てたりする。今回は、老婆の幽霊(?)がライムンダの母親だということにしばらく気づかなかった。別に分かりにくい筋書きでもないのに、(缶ビールを3本飲んで眠かったということはあるが)、その映画の基本的なところを理解していなかった。
おまけに、観たあとはすぐ忘れてしまう。映画でも小説でも、観たり読んだしたこと自体を忘れることはないし、その作品が面白かったかどうかという印象も記憶に残っているのだが、ストーリーについてはいつもほぼ全て忘れてしまう。そのおかげで、しばらくして小説を読み直してもまるで初めて読んだみたいに新鮮に感じるというメリットはあるのだが、なにも身についてないことに虚しさを感じる。

さて、この『ボルベール』、面白かった。最初は親殺しという(映画としては)ありきたりの題材に失望しそうになったものの、やはりアルモドバル監督、そこから先が本領発揮でした。祖母、娘、孫の3代にわたる女性の哀しみが主題なのだけど、むしろその哀しみの原因は隠し味的に提示されるだけで、ほのかなユーモアを感じさせつつ物語が紡ぎ出される。
この作品の中では、2件の殺人事件が起きる。1件は過去に起きたものだけど、映画としては過去に起きた事件を含めて2件とも、殺人シーンを入れようと思えば入れれるのに、そういう刺激的なシーンはない。刺激的なシーンを入れることによって観客の心を揺さぶる類の映画もあるけれど、アルモドバルはそういう画を観客に見せない。暴力や死やセックスは簡単に観客の心を揺さぶることができるけれど、それらを直接見せずに、面白い作品を作る監督が好きだ。