楊逸

朝日新聞5日。作家の楊逸さんが寄稿した文章を読んだ。
最初の一文(3行)を読んだ時点で、続きを読んだら俺はたぶん反感を持つだろうなと思った予想は悲しいかな当たってしまった。そこには、「22年前、成田空港に降り立った中国人の私に集まったのは、怪物を見るような視線だった。」と書いてあった。楊逸さんは64年生まれだそうなので、22年前といえば23歳くらいである。そのくらいの年齢の女性が空港で怪物扱いされる理由がよく分からない。その理由がそのあと書いてあるかと思えば書いてない。ただの被害妄想じゃないのかと思ってしまう。
不安を抱きつつも全文を読むと、具体的な数字をあげて事例を紹介するなど、楊逸さんの文章はとても分かりやすかったのだが、論理は無茶苦茶なのである。
たとえばカルデロン・アランさん一家事件。約16年不法滞在した夫婦が日本で生まれた子供を残して強制退去させられた事件だ。可哀想に思うのは僕もいっしょだけど、在留特別許可を出してあげてもよかったという論調には納得がいかない。しかも、自分の意見としてじゃなく、そういう指摘をする外国人問題の専門家がいる、という表現を使ったのも気に入らない。さらに、カルデロン・アランさん一家と同じような境遇の家族は多いだろうみたいなことを言っておきながら、そういう問題をどのように解決すべきかという意見はない。いってみれば、ただ可哀想と言っているに過ぎない。外国人であっても自由に日本に来ることができ、自由に住める社会にすればいいという主張でもしてくれれば、それが日本社会においていいことか悪いことかは別にして、議論をする土台になる。でも、どうしたらいいという主張がないものだから、読んでるこちらとしてはどうにもむず痒い。そもそも彼等は「不法」滞在していたのである。長く住んでいたり、その間に子供が生まれたということを理由に、「不法」を許していいのだろうかという疑問がある。子供だけでも在留許可を出したこと自体、最近の政府はえらく寛容になったと驚いたくらいである(おそらくマスコミに取り上げられたせいで、法律を厳格に(というか、ちゃんと)執行すると世論から叩かれそうだと用心しただけだと思う)。
技能研修制に関する考察についても全く納得できない。楊逸さんは、「高い保証金を払い」、来日したら、「重労働をさせられ」、「月給は5万円から10万円程度まで」で、「残業1時間につき300円程度の手当しかつかない」と言っている。それは全て真実である。が、しかし、高い保証金を払ったのは研修生自身だし、その金が彼等を雇った社長の懐に入るわけではないし、重労働をさせられっていうけど、無理矢理強制連行して連れてこられたわけじゃなし、月給が5万円とか残業単価が300円というのも研修生は労働基準法でいうところの労働者じゃないから違法じゃないし、研修にくる人もそれくらいの報酬だって分かって来てるはずだし、それに研修生はそもそも残業しちゃいけないことになっているけど稼ぎたいからそんな単価でも進んで残業している人がほとんどだし、もしかしたら研修生と実習生の違いを楊逸さんは知らないのかもしれないけど、要するに、ある事実に対して、楊逸さんの視点は一面的に過ぎるのである。そりゃ、同じ仕事をしても日本人より安い給料しかもらってないのはおかしいけれど、それを分かってて彼等は日本にやってきているのも事実なのである。
日本人妻問題にも楊逸さんは触れており、それについても僕なりの反論はあるが、面倒だからもうこれくらいにしておく。
話は変わるが、ワールドカップの観客が「ニッポン。ニッポン」と叫ぶのを見ると、「バカか、お前ら」と思う。お前が応援している日本人選手はお前の知り合いか?選手はお前のこと全く知らないぞ。なんでそんなヤツの応援するの?対戦国の選手と日本の選手との違いは、日本の選手が単にお前と同じ国籍だっていうだけなんだぞ、と言いたい。と、いいながら、やっぱり日本を応援する自分があるということは、愛国心なんてものを持っているつもりはないのに、ほんとうは自分が所属するというだけの理由で他の国より自分の国に近しいものを感じるのがフツーなんだと思ってしまう。
なんでこんなことを言ってるかというと、日本に対する楊逸さんの批判に反感を覚えるのが自分のなかの愛国的精神が理由ではないかと恐れるからである。