『陽気なギャングの日常と襲撃』

陽気なギャングの日常と襲撃 (祥伝社文庫)

陽気なギャングの日常と襲撃 (祥伝社文庫)

小説にしろ映画にしろ、いざ読もうとしたり観ようとしたりすると、ちょっと面倒な気持ちになる。読むこと観ることはそれなりに集中力が要るし、忍耐も必要だからだ。テレビを観るのとはわけが違う。
でも、この作品というか伊坂作品全般に言えることは、例えば三島由紀夫を読むときみたいな苦痛がない。苦痛があってこその読み応えというのも文学の効能だけど、伊坂作品(それは文学でないと言っていいだろう、批難の意味においてではなく)に求められるのは苦痛ではない。ちなみに、読み易さ(あるいは読み難さ)でいえば、愚息が買ってきた『名探偵コナン』とほぼ同じであり、面白さは圧倒的に『陽気〜』が上なので、『コナン』より先に『陽気』を読み終えた次第である。
久遠の掏摸の腕前や鍵屋の田中のようにストーリーを進めるには都合のよすぎる設定が気にならないこともないが、文芸作品じゃないんだからと目をつぶってしまえばすごく楽しめる。
ストーリーは時間通りには進まない。ある場面が前の場面の続きとは限らない。いつもの伊坂風のつくりだ。それら一つひとつのピースがどこかでつながっていることは示唆されるが、物語の後半まで読者にはジグソーパズルの全容が分からない。登場人物の洒脱な会話とともに、このパズルめいた構造が伊坂作品の魅力といえるだろう。ただ、それぞれのピースが1枚の画に組み上がる瞬間の鮮やかさと盛り上がりは、前作『陽気なギャングが地球を回す』に及ばなかったのが残念である。
にしても、そこらのマンガより遙かに面白かった。